翻訳では訳語の選定がとても重要であることは言うまでもありません。これはもちろん通訳にも言えることです。
ただ、翻訳と通訳の違いは、翻訳ではエージェントのチェッカーだけではなくクライアント企業の英語ができる担当者の目に触れる可能性があることと、その業界や会社での単語の好みがとても色濃く反映されます。あくまで私見ですが、この2点は通訳よりもはるかに強力に働く印象を持っています。
ご存知のとおり、訳文はエージェントを通じて(オンサイトや直接契約の場合は直接)クライアント企業に訳文が納品されます。その時、クライアント企業の英語ができる担当者がチェックすることがあります。そういう方は自社の用語集を持っており、それを厳密に守っているかを重視します。
例えば「場所を決定する」は
determine the location (他にはpositionなど)
ですが、
finalize the locationといった表現を好む場合もあります。
これは、「完全に決定してください。もしも今後変更したらそちらの責任ですよ。」という意味を入れたいためです。
こうしたルールを守るのってフリーランスの翻訳者にとって実はとても大切なことなんだと最近思いました。
例えば、クライアントによるトライアルの場合では、クライアントの用語集から逸脱しただけで落とされる可能性があると思うからです。どんなに英語自体が秀逸で文法ミスがなくても、です。メールなどのメッセージ性の強いものでは特にいえると思います。
翻訳通訳に限らず、茶道でも空手でも何にでも言えますが、型が厳密に決まっているものは最初は窮屈ですが、郷に入れば郷に従えの教えのとおり従って、慣れてきたら許容範囲内で自分の考えるベストな訳文を提供するのがいいと思います。
「守破離」という言葉があります。
「守」は師匠の教えや型を忠実に守ること。
「破」は他の師匠や型を見て良いものを取り入れること。
「離」は独自の新しいものを生み出すこと。
最初は「守」でとにかくクライアントの要望・用語集に従うこと。
いずれ、過去の翻訳やクライアント以外からのメールなどに、新たな表現を見つけることがあります。これで「破」。
クライアントとの関係次第ではここまでにしておいて、「離」に行くのはクライアントから相当な信頼を得るなどして、その会社の用語集を書き換えることが許されるくらいにならないときついんじゃないかなあ。
などと考えています…。